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事務所通信追伸

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2020年3月号

   

 正月の初夢で富士山を見ました。家内と一緒に伊豆を歩いていて、空を見上げたら、青々とした富士山がそびえていたのです。今年は更にツキそうです。



 さて、人と「合う、合わない」という話を、職場についてもたまに耳にします。しかし、職場というある目的(私は理念追求だと思っていますが、ここでは利益追求でもいいでしょう。)のために一緒に働く以上、人の好き嫌いは、捨てろとはまでは言いませんが、脇に置くのが本当、あるいはプロのあり方ではないかと私は思っています。


 昨年12月12日の日本経済新聞「逆風順風」(篠山正幸記者)に、かつての広島の黄金バッテリーである大野豊投手と達川光男捕手のことが書かれていました。

記事の3日前にあった、年間最優秀バッテリーを表彰するパーティで、選考委員の大野氏が明かしたのは、「おしゃべり」な達川選手とは最初は性格的に合いそうになかったということです。寡黙な大野選手とは確かに合わなかったでしょう。


しかし、達川選手と、チームを強くしたいという思いを共にし、自分の考えと相手の考えのどっちがいい悪いでなく、常に話し合って、お互いを理解することで、信頼関係ができ、黄金バッテリーになっていったそうです。


篠山記者は「これほどざっくばらんに語れること自体、同い年でもある2人の絆の強さを示すが、仕事上の相方選びと、肌の合う、合わないは別問題という、プロフェッショナルな人間関係のあり方がみえるようでもあった。」と書き、そして「いくらいい人で、性格的に申し分なくても、力がなければ組んでも勝てない。勝てなければ給料が上がらない。となると、多少性格は合わなくても、仕事ができる人と組んだ方がいい、ということになる。」と続けています。


 かく言う私も、サラリーマン時代、不仲な同期とダンス(ディスコ)パーティのダブル幹事をやる羽目になりました。最初は嫌でしたが、従来の3倍もの会場に変更した企画を成功させたい気持ちが強く、約1ヶ月間ほぼ連日睡眠4時間という必死の準備をした甲斐あって、パーティは大盛会。終わってみたら、彼との信頼関係ができていました。とっても不思議な感覚でした。







2020年2月号

   


 とある講演を聴いていて、自分が日本経済新聞のある記事をスルーしていたことに気づきました。それは816日に、若林直樹 京大教授が中小企業の働き方改革について書かれたものです。記事では、英国の大学教授の「一般に中小企業での労働者の職務に対する満足度は大企業よりも高い」という調査結果が紹介されています。

 若林教授は「中小企業の場合には仕事の自立性や裁量の範囲、経営側との対面的なコミュニケーションの多さが満足感につながっている」と書かれています。

 中小企業の強み、すなわち、中小企業で働く社員のヤル気を生かした経営をしないともったいない、と私は思った次第です。

 

 同じ日経新聞の1221日の「私の履歴書」に、㈱TDKの澤部肇元会長が社長就任直後のことを書いておられました。以下はその引用です。


スナップ1

大阪の本社を訪ねると「今夜空いていますか」と聞かれた。あなたに贈り物があると言う。なにか記念品をくれるのかと思ったら、酒席でこんな話をしてくださった。

「社長になってしばらくたつと知識がついて、いろいろなことに自分の考えを持つようになります。

社長になっての挨拶回りでは(中略)松下電器産業(現パナソニック)の谷井昭雄さん(当時相談役)の話が印象深い。

 そうなると、自分の考えと同じことを言う人ばかりを評価するようになって、違う意見の人の話を聞かなくなる。それは仕方のないことです。しかし、そうなるということはよく覚えておいてください」  

  (Wikipediaより

 単に意見の違う人の話を聞けというのではなく「人間、そうなるのは仕方ないことなのだ」という谷井さんの話はすんなりと腹に落ち、社長時代、常に思い返す座右の銘になった。この話は後に社長を辞めるとき、身にしみて思い出すことにもなる。



引用を終わります。「社長になるとイエスマンで周りを固めるようになる」という話はよく聞かれます。谷井氏の話がひと味違うのは、そのことを完全否定せず、「仕方のないこと」と受け止めながら、「そうなることはよく覚えておく」と極めて実際的な思考方法を示しているところにあると私は思います。


私たち中小企業の経営者も、肝に銘じる必要があるのではないでしょうか。





2020年1月号

   


 体脂肪計で世界一となり、社員食堂でも話題になった株式会社タニタの創業一族である谷田昭吾氏の講演を聴く機会が、この7月にありました。

 講演では先代から学んだ経営学を論理的視点でご説明され、ご自身が学んできたポジティブ心理学(個人や社会を繁栄させるような強みや長所を研究する心理学)の視点から、ビジネスや日常生活で成功法則を実践するための方法をお話しくださいました。


(写真は同氏のFacebookより)

スナップ1 その講演の最後に勧められたのが「心をポジティブ(前向き)にする方法」です。それは、①その日嬉しかったこと3つと、②その3つに自分がどう関わったかからそうなったかを書き留める、というものです。


3日坊主でぐうたらな私は、3ヶ月だけ、しかも1つだけでやってみることにしました。1日の振り返りなので、書くのは毎日寝る前です。

そして3ヶ月が経ちました。あくまで私の場合です が、わずか2パターン(思考が単純なのかも?)に集約されました。


「××(多くは仕事)が無事終わって嬉しかった。自分なりにがんばったから・・」と「○○さんから良くしていただいて嬉しかった。○○さんを大切にしてきたから・・」の2パターンです。


 上記の①と②の2つをなぜ書くのか、谷田氏のご説明はなかったです。が、①の嬉しかったことを書くことで、前向きな気持ちに自分の心を向ける意味があるのは、私でもすぐわかりました。しかし、②のそれに自分がどう関わったからそうなったかを書く理由は、まったくわかりませんでした。


 けれども、3ヶ月続けたらわかりました。私の場合は、自分の頑張りと人を大切にすることで、自分の喜びや幸せが得られる、ということが。



 喜びも幸せも偶然やって来るのではなく、自分の考え方と行動次第ということです。言ってみれば、当たり前のことのようですが、意識の上の方に置けるか置けないかで違ってくると私は思います。


 ともすれば「がんばりすぎない」とか、再々申し上げているように「人と人の関わりが薄くなっていく」昨今です。そんな中で、自分と周囲の人々の喜びや幸せのために自分がどうすればいいのか、大切な確認ができたと私は思っています。



 あるTKC会員が「人の話を聴いたら1つでも実践してみろ!」と仰っていましたが、まさにその通りでした。







   

2019年12月号

     


 

 今年822日の日経新聞に、女子柔道家の出口クリスタさんが紹介されていました。カナダ人の父と日本人の母の間に長野県で生まれ、3歳からずっと日本で柔道一筋です。

 高校時代はパワーで押す柔道でライバルの芳田司(つかさ)を破るなど前途洋々でした。ところが、大学時代はその「強引に相手に押しつけてきた」戦いが通じなくなりました。スランプが続き、2016年の講道館杯では2回戦で敗退してしまいます。

 五輪もうたかたの夢になりかけていた時、カナダの代表コーチから誘いを受け、裏切りと思われないかと悩んだ末、カナダ代表として五輪を目指すことを決意します。

 国籍変更に対しSNS(交流サイト)上には「日本から出て行け」という心ない声も届いたそうです。

 しかし、その何十倍もの応援の声が彼女の支えになりました。勤務先の日本生命甲府支社の上司は「どこの代表かは関係ない。五輪で活躍する姿が見たい」と話しています。


 出口選手自身、自分のためだった決断が「今は、家族や受け入れてくれたカナダの人たちを含め、いろいろな人の気持ちを背負っている」と噛みしめています。

 そして、カナダチーム内の「負けても怒られない」空気のおかげで、負けても「次、がんばろう!」とすぐに気持ちの切り替えができるようにメンタルが大きく変わりました。


 その結果、2018年には5つの国際大会で優勝しました。その年の世界選手権では、準決勝で芳田選手に負けましたが、今年の世界選手権では、決勝でその芳田に勝ちました。東京五輪の決勝戦で、日本代表(芳田司?)と対戦することを私は期待しています。


 


それにしても「日本から出て行け」はあまりにもひどいです。先月号で紹介した、世界的投資家であるジム・ロジャース氏の言葉の中に「日本人は外国人に対する差別意識をなくす必要がある」というものがありました。それを思い出しました。


 ラグビーW杯の釜石での試合が台風19号で中止になった後、カナダ代表の選手たちが、泥かきや家財の運び出しなどを手伝ってくれました。出口選手への心ない一言を思うと、カナダの人たちに申し訳ない気持ちがします。


けれども、今回のラグビーW杯で、日本人の外国人に対する理解は、ずいぶん進んだのではないでしょうか。選手31人中15人もが海外出身ながら、「ワンチーム(ONE TEAM)」としてベスト8を成し遂げた日本チームの活躍ぶりは、日本人の価値観を変えるほどのものではなかったでしょうか。





2019年11月号

   

 世界三大投資家の一人であるジム・ロジャース氏の「日本への警告」(講談社)を読みました。以下はその本からの抜粋の箇条書きです。


・私はオックスフォード大学で歴史を学んだ。歴史や哲学を学び、興味を持ち続けたことで、将来どのような変化が起きるかを長期的に予想することができる。

・歴史は繰り返される。過去も現在も、そして未来も私たち人間はほとんど変わっていないからだ。

・その一方で、物事は変化するということも、歴史から学ぶことができる。


スナップ1

・安倍政権は日本円の価値を下げようとしている。日銀の指し値オペ(公開市場操作)は、紙幣を無制限に刷っていることと等しい。こうした通貨切り下げ策が中長期的に一国の経済を成長させたことは一度としてない。


・やがて日本の財政破綻がより人々の目に明らかになり国債が買われなくなれば、日本政府は金利を引き上げざるを得なくなる。そのとき、日本は高金利によってさらに膨らんだ借金と向き合わなくてはならない。


・日本政府は少子化対策として効果がありそうなことは何でもやるべきだ。

・歴史上の事実に耳を傾けるならば、豊かになるには移民を受け入れるほかない。そのためには、外国人に対する差別意識をなくす必要がある。

日本人にとって、日本国外(海外の株式やETF(上場投資信託)や不動産)に投資をすることはきわめて重要だ。

・最高品質のものは何でも日本にある。私が提案したいのは「メイド・バイ・ジャパン」(日本人の監修のもとでの海外生産)を世界に広めることだ。

・ペットボトルの緑茶は残念だ。急須でお茶を入れるのは美しい文化だ。日本人はいま一度自国の歴史を学び、誇るべき日本文化の価値を認識すべきだ。


・アメリカではトランプ政権が保護主義を強めているが、愚策でしかない。世界最大の対外債務を抱えるアメリカは、経済悪化により国債の債務不履行を引き起こす可能性がある。

・中国経済はまだまだ成長を続けるだろう。次なる覇権国家は中国である。


 


 一読して、過激な言葉は散見されるものの、奇をてらってはおらず、オーソドックスかつ柔軟な考え方をする人だと私は思いました。








   

2019年10月号

     


 

 夏の甲子園は履正社が初優勝しました。いつも東北や北陸の代表を応援する私は、星陵の優勝を切に願っていたのですが・・・

 

 その決勝戦の日に、智辯学園奈良と智辯学園和歌山の野球部の監督を46年間も務めた高嶋仁氏の講演を聴きました。甲子園に38回出場し、歴代最多の68勝を挙げ、春夏合わせて3回優勝されています。

 

高嶋監督の言う「日本一の練習」は半端ではありません。練習時間は8時間で、遅い時には夜中の2時までです。普通は200300回の腹筋トレーニングを2000回、普通は100150回のバットの素振りを1000回やります。

ところが、1学年の選手はたったの10人です。3年生だけのチームなら、補欠は1人だけです。

では、優秀な選手ばかりを集めるかと言うと、まったく逆です。授業料免除の特待生制度がないので、中学野球で顕著な成績を残した生徒は来ません。そして、10人のうち和歌山県以外からは2人だけです。

こうして、いわゆるB級の選手たちを「日本一の練習」で、甲子園で優勝するまでに鍛え上げます。


ここまで聴いて、私は「辞める生徒が多ければ、甲子園どころか野球部廃部では?」と思いました。その私の疑問に答えるように、高嶋監督はこう話されました。「落伍者を出さない。」

「その秘訣は」とはおっしゃらずに、続けた言葉が「選手の話を聴く」でした。「選手の言葉に一切口をはさまないで話を聴く。そして、次の日に自分の意見を言う」

とことん選手の話を聴く。それが智辯和歌山の真の強さを生む、と私は理解しました。

振り返ってみると、社員から本当の話を引き出せていない自分がいます。それこそ「話にならない」と猛省しつつ、会場を退出される高嶋監督の後ろ姿に拍手しました。

 

 


 103()に、恒例のTKC経営支援セミナー2019を開催します。講師は「6時だよ 全員退社!」の著者である田中健彦(たなか たけひこ)氏です。

今や喫緊の課題である「働き方改革」実践のヒントが得られるものと期待しています。是非ともお越し下さい。


2019年9月号

     


 7月に岡山で日本臨床脳神経外科学会が開催され、オープン参加の市民公開講座に参加することができました。


 講師のお1人はこの7月号でご紹介したサイバーダイン社長の山海嘉之氏でした。同社開発のHALは足腰や腕に装着するサイボーグ型ロボットで、人が筋肉を動かす際に出す微弱な生体電位信号を、皮膚に貼ったセンサーで検出して、モーターで意思に従った動作を実現するものです。

 

 「動かしたい」という意思に従ってHALが動作を助けると「動いた」という感覚が脳に戻ります。この繰り返しで脳と神経、筋肉のつながりが強まるそうです。要は、HALは体の動きを助けますが、その繰り返しによってHALの装着なしでも身体の動きが良くなるのです。


 2歳で交通事故に遭い、脊椎損傷で車いす生活を続けていた少年が、9歳のときHALを装着し、数時間後に少年の脚がビクリと動きだした映像を、本人と両親の歓声とともに見せていただきました。まさに「百聞は一見に如かず」でした。

 少年は体幹の強化にもHALを使い、(当然ですが)HALを装着せずにプレーする車いすテニスの日本ジュニアチャンピオンになりました。身体の機能が改善したのですが、少年とご両親のメンタルも良くなったそうです。





 「人間の持つ大きな可能性を信じる」という点では、もう1人の講師である有森裕子氏も同じでした。


生まれつき股関節脱臼だったこと、元気のない小学生だったけど声をかけてくれる先生がいて陸上を始めたこと、高校では優秀な選手を集めた陸上部に粘りに粘って仮入部したけど3年間補欠だったこと、大学でも芽は出なかったけど社会人になって小出監督と出会い、2大会連続のオリンピックのメダリストになったことを熱くお話しくださいました。

「長い長い時間、がんばり続けたんだなぁ」と私は驚きました。


 「言葉は人の行動を変える」「人間の持っている大きな可能性を信じてほしい」「最悪の状態の中でも、最高の状態を作る」「一所懸命がんばる。あきらめない」「がんばっていれば、誰かに応援してもらえる」「何で〇〇なん?より、せっかくだから△△しよう!」と、すばらしい言葉をたくさんいただきました。





2019年8月号


経済産業省のホームページにありますが、「中小企業の存在意義や魅力等に関する正しい理解を広く醸成するために」中小企業基本法の公布・施行日である720日が「中小企業の日」と定められました。


 広報用のロゴマークもあります。

「日本経済を支えている多くの中小企業・小規模事業者を柱に見立て、緑の矢印で『企業の成長』を表現しています。

昭和、平成、令和と時代が移りゆくなかで中小企業はいつの時代も日本経済を支え続けています。

さらに日本を元気にするために“ホップ、ステップ、ジャンプ”と令和時代にさらに飛躍することの期待を込めつつ、中小企業庁のロゴにもある楕円の線とその先端の丸いオブジェクトを配し、不変の支援を続けていく決意も表現しました。」とのことです。

カッコいいデザインかと言われると、個人的には正直「・・・」という気もします。しかししかし、表面的には必ずしもカッコよくないことこそ、逆に中小企業の本当の意味でのカッコよさだと私は思っています。いいデザインです。

 


 上場企業から税理士事務所すなわち中小企業に転職してからほどなく、税理士である上司から「どうだ。中小企業の世界は?」と訊かれ、私は「ええカッコせんでいいのがとってもいいです。」と答えました。(ただし、私が最初にお世話になった会社は、上場企業の中ではかなり「ええカッコせんでいい」社風でした。)

 こんな価値観は、私の父親も母親も作業服を着ての仕事だったことで作られたような気がします。ですから、私は作業服姿で働いている人を見ると、少々大げさに言うと、尊敬の気持ちがわいてきます。

 中小企業にしても作業服姿にしても、そこにより真実味を感じるから、自分は「カッコいい」と思えるような気がします。もちろん、大企業やスーツ姿に真実味がない訳ではありません。要は真実味にカッコよさを私は感じるのです。

かわいげもあるこのロゴマークを大切にしていこうと思っています。






2019年7月号

       日曜日の新聞はページ数が少ないですが、526日の日経新聞は目を引く記事が多かったです。

 

 大阪にある隆祥館書店は、「作家と読者をつなぐ書店」です。街の書店がどんどん減る中、店長の二村知子さんが「小さい本屋だからこそ、何かやらなあかん」と2011年に始めたのが、作家と読者をつなぐ座談会です。もう200回以上になります。刑務所をテーマにした著作がある作家との座談会では、少年達が犯罪に手を染めた経緯を参加者が聴き、会場中が涙しました。

 客からおすすめの本を訊かれることが多く、「510分話すとその人の好きそうな本が分かる」そうです。私も是非行ってみます。

 

 身体機能を改善、補助するサイボーグ型ロボット「HAL」の開発者であるサイバーダインの山海嘉之社長は、岡山県出身なので、ご存知の方も多いと思います。ロボットから来る連想で、私はクールな人というイメージを持っていました。これは大きな誤解で、人間とロボットの調和を真剣に考えている人です。

 帰宅後に映画を見るのが趣味で「ロジカルな日中から、最後パッと切り替える瞬間。情緒の部分を動かさないと気持ち悪い」と、毎日の人間的感動を大切にしています。一番のお気に入りは「ロレンツォのオイル」で、不治の病の息子を両親が必死に救うドラマ(実話?)です。私も是非見ようと思っています。

 

 靴磨きと言えば、路上に置かれた椅子に客が座り、職人が足元にかがんで、磨く様子を思い浮かべる人が多いでしょう。ところが、東京のビルの1室に店を構える「ブリフトアシュ」では、スーツとネクタイで決めた店主の長谷川裕也さんが、しゃれた店内のカウンターに靴を置き、客の目の前で約50分かけて靴を磨きます。路上では高くて1千円ですが、こちらは6千円と高級です。

 靴磨きの世界大会で優勝したこともある高い技術もさることながら、長谷川さんの「靴磨き職人をもっとカッコいいと思われる仕事にしたい」という心意気が素晴らしいです。中小企業経営者の中には、悪い意味で「ウチは中小だから・・」と言う方がまれにいらっしゃいます。人に上下はないので、そんなことは絶対にありません。そんな方には長谷川さんを見てほしいです。

 

 この日の新聞一面にはWHO(世界保険機構)が「ゲーム障害は病気」と正式認定したニュースが載っていました。もっと人を見てほしいと思った次第です。




     

2019年6月号

  自転車で横断歩道を渡っていた母娘が、暴走運転の乗用車にひかれて亡くなった大変に悲しい事故が、東京の池袋で4月にありました。

 そのお母さんの夫であり、その娘さんの父親である男性が記者会見で、「運転に不安があることを自覚した上での運転や飲酒運転、あおり運転、運転中の携帯電話の使用などの危険運転を思いとどまってほしい。それを周囲の方々も本人に働きかけてほしい。それが世の中に広がれば、交通事故による犠牲者を減らせるかもしれない。そうすれば、妻も娘も少しは浮かばれるのではないかと思います。」と切々と訴えておられました。


 

  事件から6日後の日経新聞のコラム「春秋」によると、日本の交通事故の約5割は「車が人や自転車をはねる」ものです。ところが、欧米の交通事故では死者の多くが車同士の事故によるもので、歩行中や自転車走行中の死者は全体の23割です。日本の交通環境は弱者に厳しいと言えます。


 報道では高齢ドライバーの運転技能の議論が盛んです。しかし、ご遺族が記者会見で訴えておられるように、(数としては圧倒的に多い)高齢でないドライバーである皆さんも、「この事件をきっかけに、自分の運転を見直してほしい。」と私は切に思っています。他人事にしてほしくはありません。               


 先の日経新聞によると、「日本自動車連盟JAFの調査では、信号がない横断歩道を歩行者が渡ろうとしても、停車する車は1割に満たない」そうです。皆さんはいかがですか?


 もう一つ、歩行者の方(かた)も気をつけてほしいです。車で交差点を通過する際、たいていの人は車の方を見ていません。私は直視しないまでも、必ず車を視界に入れて横断歩道を渡ります。また、歩行者として信号待ちをしている際は、万が一突っ込んでくる車があっても危険が少ない位置、たとえば信号機の陰に立ちます。



 34年前の6月、私の父は自転車で横断歩道を渡っていて、信号無視の時速100キロの車に約50㍍吹っ飛ばされました。即死でした。だから申し上げるのです。


 自分があの世に行って、もしもあの母娘に巡り会えたなら、「あなた方のお父さんが頑張ったから、あれから交通事故は減ったんだよ」と言いたいのです。






2019年5月号

  ここ1,2年「人手不足だけど、募集しても人が来ない」というお客様の声が増えています。言うまでもなく、そういうニュースも増えています。


 売上げ確保のために、自社のお客様にとって魅力ある会社(が作る製品、サービス)である必要があるのはもちろんです。他方、自社で働く社員さんにとっても魅力ある会社である必要がある、あるいは魅力ある会社を目指して行く必要がある、そういう時代になってきました。


 魅力の中身はいろいろありますが、賃金のことを避けて通る訳にはいきません。

 そして、4月は一般的には昇給の季節です。私どものお客様の約3割は残念ながら黒字ではないので、心に痛みを感じつつ以下申し述べます。


322日の日経新聞の記事「ニッポンの賃金」に、私は少なからぬショックを受けました。日興アセットマネージメントが2012年以降の株価を分析した結果、労働分配率が高い企業ほど株価が上がりやすいことがわかったのです。株価は利益と連動しています。同社の石川部長さんは「従業員の満足度やヤル気の向上が株価に好影響を与えている可能性がある」と話しています。




「労働分配率(人件費÷付加価値、あるいは人件費÷限界利益)は、業種にもよりますが、65%以下を目指して下さい」と私は申し上げています。「人件費を減らして下さい」ではなく、「限界利益を増やしましょう」という意味で申し上げることが大半ですが、私が申し上げていることと先の調査結果は一見逆さまです。


 しかし、矛盾ではなく、「限界利益を増やして、最終的な利益を出すためには、あえて賃金を上げるという要素もある。」と私は理解しました。あるいは、今年賃上げができなくても、社員さんと3年ないし5年後のビジョンを共有し、利益確保と賃上げに向けて一緒にがんばることが不可欠ではないでしょうか。


 記事の後半には、小西美術工芸社の英国人社長であるデービッド・アトキンソン氏の発言が載っていました。氏は「労働コストが上がれば利益は圧迫されるだろう。人件費の増加分を価格転嫁するのは難しく、経営者も生産性を高める必要性に気づくはずだ。」と主張されています。立場の弱い中小企業だからこそ、価格転嫁を諦めてはいけないと私は思いますが、生産性向上は大変に重要です。


 今回のテーマは、ここに書いていいかどうか、随分悩んで書き始めました。私自身も、毎年4月は昇給幅の1千円でウンウン悩みます。けれども「言いにくいことこそ大切なこと」と何かで読んだ記憶があります。お叱りのお声があれば、私まで遠慮なくお寄せ下さい。







       

2019年4月号

  


先月に引き続き、小林慶一郎慶大教授の講演のことを続けます。



年々膨らむ財政赤字は、いつかは将来世代が負担することになります。今の世代の負担軽減は、将来世代の負担増(大幅な増税かインフレか)になります。この点は地球温暖化対策と同じで、どちらも世代間協調問題と言えます。

しかし、政治家は今の自分の議席を死守したいので、「将来の子供たちのために増税しましょう」とは決して言いませんし、仮にそういう人がいても投票する有権者は少ないでしょう。


小林教授は「現代社会は個人の利己的かつ合理的な行動を容認(追求)しているので、世代を超えた超長期の政策プロジェクトは、現代社会では実現不可能」とまで仰っています。厳しい見解です。


しかし、小林教授は諦めません。この閉塞感を打開する糸口として、高知工科大学の西條辰義教授が提唱された「フューチャーデザイン(将来設計)」というアイディアを紹介されています。

これは「将来世代の利益代表を政治の場に出現させる」というものです。実際にこれを実践したのが岩手県の矢巾町です。


上水道事業をどうするかの住民討論を2015年に行った際に、現代世代グループだけでなく、将来世代グループを作って議論をしました。将来世代グループとは「2060年に生きている将来人になったつもり」でその議論に加わってもらう人たちのことです。

当時から上水道事業は黒字だったので、水道料金の値下げという選択肢もありましたが、結論は違いました。2060年までに大規模な設備更新投資が必要であること、それが年々の黒字の蓄積でも不足していることが重視され、逆に水道料金の値上げが提案されたのです。


この仮想将来世代を政策決定の場に入れるという試みは、長野県松本市や大阪府吹田市でも行われています。利己的という限界を超えて、意思決定における世代間利他性、端的にいえば「子供たちのために、今我慢しよう」という意識を高められます。これは2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)とも整合性があります。



今の私たちが意識改革をすれば、未来の子供たちを幸せにできる、と私は考えます。