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事務所通信追伸

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2020年8月号

    以下、65日の日本経済新聞のコラム「春秋」から引用します。

 これぞ芸の極み、と忘れられない思い出がある。25年ほど前、名古屋であった古今亭志ん朝さんの落語会。演目は十八番の「幾代餅(いくよもち)」だった。搗()き米屋の奉公人、清蔵が花魁(おいらん)、幾代太夫の錦絵を見て一目ぼれし、1年間必死に働いたお金で吉原へ会いに行くという噺(はなし)だ。

 いちずで真っ正直な清蔵に心動かされた幾代太夫が、「ぬし、あちきを女房にしてくんなますか」と問う。その瞬間、志ん朝さんが幾代太夫に見えた。失礼ながら外見でいえば、志ん朝さんとはまさに正反対。それなのにそこには確かに目をうるませた幾代太夫が、膝を斜めにして座っている――。しばらく動けなかった。


 新型コロナの影響で、各地の寄席や落語会は休演が続いている。インターネットを通じ落語の魅力に接する機会はあるが、やはり寂しい。動画投稿サイトで高座を生配信していた春風亭一之輔さんは「面白さは百分の一も伝わらないと思う。それでも、落語を忘れないでいてもらうためにやりました」と本紙に語っている。     

 引用を終わります。私も同じような経験があります。

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桂米朝さん(2015年没)の岡山市民文化ホールでの落語でした。その時既に人間国宝だった米朝師匠のお話に、私の全身がすーっと引き込まれたのです。目の前の景色、私の前に大勢の聴き手がいて、その向こうの舞台の真ん中に米朝師匠が座っている、その景色がすっ飛んで、米朝師匠が語る江戸時代の大坂の町並みの景色が見えたのです。ほんの一瞬でしたが、「耳で景色を見た」不思議な出来事でした。


 春風亭一之輔さんの「(インターネットでは)面白さは百分の一も伝わらない」とのお話はよくわかります。米朝師匠がテレビカメラの前で演じた映像を視聴しても、あんな不思議な出来事は起きなかったでしょう。やはり、米朝師匠の目の前に自分も含め大勢の聴き手がいて、その聴き手が熱心に聴き入っていたからこそ、話し手の芸が至高を極めたのだと私は思っています。


元の日々に戻ったら、落語も大いに楽しみたいです。





2020年7月号

もともと私はマスクが苦手です。着用が煩わしいからです。私はメガネをよく外しますが、それと同じ理由です。

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恐縮しつつ申し上げると、人がしているのも少々苦手感があります。(医療や調理に従事されている方、病気の方はもちろん別です。)

それはその人の表情がわかりづらく、気持ちもわかりにくいからです。普段の信頼関係ができていれば、気になりません。けれども、特に初対面でマスク着用の人とだと、表情や気持ちがわかりにくく、話を聞くにも話をするにも難しさを感じます。

 しかし、言うまでもなく、現在のこういう状況では、そういうことを言ってはいられません。私もマスクをなるべく着用しています。


 自分が気になるのは、新型コロナの収束後のことです。「以前の状態に戻らない」とか、「以前より良い状態にする」とかよく言われます。

 後者の例としては、先月号に書いた「意味のない会議はしない」があります。在宅勤務を取り入れて大都会の通勤ラッシュが緩和されるのもいいと思います。

 けれども、「新しい生活様式」のすべてを収束後も続けることに、私は少し違和感を覚えます。一番気になるのは、「人との距離を取る」ことで、人と人の関わりがますます薄くならないかということです。レジで間を空けて並ぶのはいいです。そういうことではなく、気持ちと気持ちの通い合いが減ることを心配しています。

 「人との距離を取る」ことにこだわって、人と話さない人が増えないか、社会から孤立した人が増えないか、大げさかもしれませんが、それが生命の軽視につながらないでしょうか。新たな感染症による死者は防げても、大きくは戦争、飢餓、身近には生活苦、児童への虐待、こういったことによる死者が増えては何にもなりません。

 新型コロナ収束後の「新しい生活様式」を考えるのは、いま始まったばかりだと私は思っています。


 話をマスクに戻します。今はせざるを得ないのですが、みなさんは呼吸が浅くなっていませんか? 曹源寺の原田老師が、「現代人は呼吸が浅い。それでは肺の中がよどんだままなので、細胞は活性化しません。深く長い息をしてほしい」と以前仰っていました。

 また、県内のある高校の野球部の監督さんの「選手に深呼吸をたくさんさせると、プレーがまったく違います」という発言も記憶にあります。


 「息」は「自らの心」と書きます。ご自分の呼吸を大切にしていただきたいです。





2020年6月号



 新型コロナウィルスの感染拡大が止まりません。今やすべてのお客様に何らかの影響がある状況です。WHO(世界保健機関)のテドロス事務局長が「テスト、テスト、テスト(検査、検査、検査)!」と叫んでいた2月に、政府がPCR検査を拡大しなかった(できなかった?)ことが、(専門家ではないですが)私は悔やまれます。しかし、それも今だから言えることでしかありません。これから何をどうするかです。


お客様方にはお願いのお知らせをしましたが、私どもの事務所でも在宅勤務を一部取り入れました。原則認めていなかった、休日出勤の平日への振替も可としました。先月号に書いたように「できることを(探して、探して)やる」しかありません。

 「不要不急の外出を控える」ことで、私が属する税理士会、TKC、同友会も、すべての研修・会合がなくなりました。(皆様方も同様だと思います。)

 そこで私は自問しました。「TKCや同友会の会合は、すべてとは言わないけど、ホントに必要だったのだろうか?」と…。私が考えて出した答えは「多くは必要だった。」というものです。正直、TKCと同友会がなかったら、今の事務所とは似て非なるものにしかなっていません。

けれども、確かにムダな時間はありました。自分から好んで行った訳ではなく、つき合いで出かけた行事、一部の人だけで物事が決まるのに、ただ聞いているだけの会議、ああでもない、こうでもないだけで結論が出ない会議です。再開してもこんな会合は改善を求めるか、行くのを止めようと思っています。

 

 今の世の中は不幸です。にもかかわらず、その不幸の中で、大切なこと、必要なことは何なのか、よくよく見極めることが、限られた人生を大切に生きることにつながる、と私は信じています。不要と不急をごっちゃにしてはいけないです。

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  休店された飲食店業のお客様にお話ししました。「休店となると、人とお酒を飲みに行くことはなくてもいいと思えてしまう。自信を失う社員さんもおられるかもしれません。しかし、決してそうではない。会いたい人と一緒に飲食を共にし、語り合う。そういう幸福の場を提供するお仕事は、世の中に必要です。そのお仕事への誇りを失わないでほしいです。」と…。

 今は「いつか飲みに行こうと思っていた人と、行っとけばよかった。」と思うことが多いです。早く平穏無事な日々が戻ることを強く祈念し、いろんな人と大いに飲みに行けることを私は楽しみにしています。





2020年5月号


 新型コロナウィルスの影響が私どものお客様にも及んでいます。地方都市の岡山も、日本全国、世界とつながっていることを、こんなことで実感させられます。

 先がまだ見えないだけに、監査担当の報告書を読むと、大きな影響を受けておられるお客様のことがとても気がかりです。

 その中で一つだけ悪くない報告がありました。今時点では観光業の次に影響を受けている飲食店業に属しておられるお客様が、「外的要因なので売上への影響は仕方がない部分がある。お店はできるだけのことをして、過敏になりすぎないようにしたい。」と言われたのです。 

 「なるほど、そうか。」と感じ入り、思い出したのが元プロ野球選手で巨人やヤンキースで活躍した松井秀喜氏の言葉です。「どうにもならないこと、ではなく、今、自分にできることに集中するしかありません。」と同氏著の「不動心」にあります。松井氏は「過去の自分はコントロールすることはできません。しかし、未来の自分はコントロールできます。」とも書いています。                                (ヤンキース時代の松井選手)



 また、横浜ベイスターズからレイズに移籍した筒香嘉智選手の「開幕延期は僕たちが左右できない。」という言葉が、326日の日本経済新聞「順風逆風」に紹介されていました。

 記者の篠山正幸氏は「自分ができることは全てやると心に決め、実行する。その積み重ねから筒香のような(一流)打者が生まれてくる。」と記しています。              


 大変にご苦労されているお客様が、ご自分の心だけは穏やかであってほしいと切に願い、この災禍が一日でも早く収束し、世界が平穏な日々を取り戻すことを強く祈っています。

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 さて、先月号で「人々の、世界の人々の幸福のためには、世界は分断ではなく、連帯に向かうことが望ましい、と私は思っています。その理由は、一人の人の誕生という神秘は、すべての人々の連帯があってこそ、起きているからです。」と述べました。

お恥ずかしながら少々大仰な物言いでした。が、私ごとながら、孫が生まれました。

1月には娘夫婦が、3月には息子夫婦が、どちらも男の子を授かりました。

人並みに心配はしていましたが、それこそ、私にできることは祈ることしかありませんでした。こうして二人が無事に産まれてきてくれたことを、神さま仏さまとすべての人々に、ただただ感謝するしかありません。





2020年4月号

     


 野村克也さんの訃報を聞いて、昔のことを思い出しました。前月号に書いた(私が幹事をした)ダンスパーティの会場が東京のサンケイホールで、そのビルのエレベーターで野村さんと偶然一緒になったのです。同じビルにフジテレビが入っていて、当時は同局の野球解説者だったと記憶しています。「話しかけるなよ」という空気満々のしかめっ面でした。野球選手にしては見るからに背が低く(175)、よくぞ超一流の記録を残せたのものだと驚いたのを覚えています。


 エレベーターと言えば、電通の本社ビルで、女優の多岐川裕美さんと一緒になったこともあります。「鬼平犯科帳」での、主人公 長谷川平蔵(中村吉右衛門)の奥方役が印象的です。実物もとってもステキで、しかもこの時は、多岐川さんと二人っきりでした。その空間で吸った空気を、エレベーターを降りてから吐きたくなかったです。


 さてさて、米国では秋に大統領選挙があります。共和党と民主党の候補者選びは始まったばかりですが、無責任に言えば、トランプ大統領はおそらく再選されるでしょう。習近平もプーチンも金正日も健在で、分断の時代はまだまだ続きます。

 しかし私は、人々の、世界の人々の幸福のためには、世界は分断ではなく、連帯に向かうことが望ましい、と思っています。理由は単純です。以前ここに書いたように、一人の人の誕生という神秘は、すべての人々の連帯があってこそ、起きているからです。

  経済も同じです。一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏(ある時講演を聴きましたが、飾らないお人柄が魅力的でした。)が、昨年9月の日本経済新聞「私の履歴書」の最終稿に、こう書かれています。



 「アダム・スミスは『国富論』で自由競争の効用を説く一方、『道徳感情論』では同感の大切さを訴えた。他者への同感という基盤があって、初めて市場競争が意味を持つ、というのがスミスの思想だ。ところが、株主資本主義や金融資本主義がまん延し、人々から同感が抜け落ちている。今こそスミスの原点に戻ろう。」



 ここでいう同感は「すべて賛成すること」ではないと、私は考えます。自分と違う考えを認めることも同感だと、野中先生は考えておられるはずです。                                                    (アダム・スミス像と野中氏)


ちょうど天皇誕生日に、陛下が「多様性に対して私たちは、寛容の心を持って受け入れていかなければならない」と仰っていることも同感だと、私は思量しています。


私たちは、次世代への責務を負っているという意味で、大変な時代を生きています。


 



2020年3月号

   

 正月の初夢で富士山を見ました。家内と一緒に伊豆を歩いていて、空を見上げたら、青々とした富士山がそびえていたのです。今年は更にツキそうです。



 さて、人と「合う、合わない」という話を、職場についてもたまに耳にします。しかし、職場というある目的(私は理念追求だと思っていますが、ここでは利益追求でもいいでしょう。)のために一緒に働く以上、人の好き嫌いは、捨てろとはまでは言いませんが、脇に置くのが本当、あるいはプロのあり方ではないかと私は思っています。


 昨年12月12日の日本経済新聞「逆風順風」(篠山正幸記者)に、かつての広島の黄金バッテリーである大野豊投手と達川光男捕手のことが書かれていました。

記事の3日前にあった、年間最優秀バッテリーを表彰するパーティで、選考委員の大野氏が明かしたのは、「おしゃべり」な達川選手とは最初は性格的に合いそうになかったということです。寡黙な大野選手とは確かに合わなかったでしょう。


しかし、達川選手と、チームを強くしたいという思いを共にし、自分の考えと相手の考えのどっちがいい悪いでなく、常に話し合って、お互いを理解することで、信頼関係ができ、黄金バッテリーになっていったそうです。


篠山記者は「これほどざっくばらんに語れること自体、同い年でもある2人の絆の強さを示すが、仕事上の相方選びと、肌の合う、合わないは別問題という、プロフェッショナルな人間関係のあり方がみえるようでもあった。」と書き、そして「いくらいい人で、性格的に申し分なくても、力がなければ組んでも勝てない。勝てなければ給料が上がらない。となると、多少性格は合わなくても、仕事ができる人と組んだ方がいい、ということになる。」と続けています。


 かく言う私も、サラリーマン時代、不仲な同期とダンス(ディスコ)パーティのダブル幹事をやる羽目になりました。最初は嫌でしたが、従来の3倍もの会場に変更した企画を成功させたい気持ちが強く、約1ヶ月間ほぼ連日睡眠4時間という必死の準備をした甲斐あって、パーティは大盛会。終わってみたら、彼との信頼関係ができていました。とっても不思議な感覚でした。







2020年2月号

   


 とある講演を聴いていて、自分が日本経済新聞のある記事をスルーしていたことに気づきました。それは816日に、若林直樹 京大教授が中小企業の働き方改革について書かれたものです。記事では、英国の大学教授の「一般に中小企業での労働者の職務に対する満足度は大企業よりも高い」という調査結果が紹介されています。

 若林教授は「中小企業の場合には仕事の自立性や裁量の範囲、経営側との対面的なコミュニケーションの多さが満足感につながっている」と書かれています。

 中小企業の強み、すなわち、中小企業で働く社員のヤル気を生かした経営をしないともったいない、と私は思った次第です。

 

 同じ日経新聞の1221日の「私の履歴書」に、㈱TDKの澤部肇元会長が社長就任直後のことを書いておられました。以下はその引用です。


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大阪の本社を訪ねると「今夜空いていますか」と聞かれた。あなたに贈り物があると言う。なにか記念品をくれるのかと思ったら、酒席でこんな話をしてくださった。

「社長になってしばらくたつと知識がついて、いろいろなことに自分の考えを持つようになります。

社長になっての挨拶回りでは(中略)松下電器産業(現パナソニック)の谷井昭雄さん(当時相談役)の話が印象深い。

 そうなると、自分の考えと同じことを言う人ばかりを評価するようになって、違う意見の人の話を聞かなくなる。それは仕方のないことです。しかし、そうなるということはよく覚えておいてください」  

  (Wikipediaより

 単に意見の違う人の話を聞けというのではなく「人間、そうなるのは仕方ないことなのだ」という谷井さんの話はすんなりと腹に落ち、社長時代、常に思い返す座右の銘になった。この話は後に社長を辞めるとき、身にしみて思い出すことにもなる。



引用を終わります。「社長になるとイエスマンで周りを固めるようになる」という話はよく聞かれます。谷井氏の話がひと味違うのは、そのことを完全否定せず、「仕方のないこと」と受け止めながら、「そうなることはよく覚えておく」と極めて実際的な思考方法を示しているところにあると私は思います。


私たち中小企業の経営者も、肝に銘じる必要があるのではないでしょうか





2020年1月号

   


 体脂肪計で世界一となり、社員食堂でも話題になった株式会社タニタの創業一族である谷田昭吾氏の講演を聴く機会が、この7月にありました。

 講演では先代から学んだ経営学を論理的視点でご説明され、ご自身が学んできたポジティブ心理学(個人や社会を繁栄させるような強みや長所を研究する心理学)の視点から、ビジネスや日常生活で成功法則を実践するための方法をお話しくださいました。


(写真は同氏のFacebookより)

スナップ1 その講演の最後に勧められたのが「心をポジティブ(前向き)にする方法」です。それは、①その日嬉しかったこと3つと、②その3つに自分がどう関わったかからそうなったかを書き留める、というものです。


3日坊主でぐうたらな私は、3ヶ月だけ、しかも1つだけでやってみることにしました。1日の振り返りなので、書くのは毎日寝る前です。

そして3ヶ月が経ちました。あくまで私の場合です が、わずか2パターン(思考が単純なのかも?)に集約されました。


「××(多くは仕事)が無事終わって嬉しかった。自分なりにがんばったから・・」と「○○さんから良くしていただいて嬉しかった。○○さんを大切にしてきたから・・」の2パターンです。


 上記の①と②の2つをなぜ書くのか、谷田氏のご説明はなかったです。が、①の嬉しかったことを書くことで、前向きな気持ちに自分の心を向ける意味があるのは、私でもすぐわかりました。しかし、②のそれに自分がどう関わったからそうなったかを書く理由は、まったくわかりませんでした。


 けれども、3ヶ月続けたらわかりました。私の場合は、自分の頑張りと人を大切にすることで、自分の喜びや幸せが得られる、ということが。



 喜びも幸せも偶然やって来るのではなく、自分の考え方と行動次第ということです。言ってみれば、当たり前のことのようですが、意識の上の方に置けるか置けないかで違ってくると私は思います。


 ともすれば「がんばりすぎない」とか、再々申し上げているように「人と人の関わりが薄くなっていく」昨今です。そんな中で、自分と周囲の人々の喜びや幸せのために自分がどうすればいいのか、大切な確認ができたと私は思っています。



 あるTKC会員が「人の話を聴いたら1つでも実践してみろ!」と仰っていましたが、まさにその通りでした。







   

2019年12月号

     


 

 今年822日の日経新聞に、女子柔道家の出口クリスタさんが紹介されていました。カナダ人の父と日本人の母の間に長野県で生まれ、3歳からずっと日本で柔道一筋です。

 高校時代はパワーで押す柔道でライバルの芳田司(つかさ)を破るなど前途洋々でした。ところが、大学時代はその「強引に相手に押しつけてきた」戦いが通じなくなりました。スランプが続き、2016年の講道館杯では2回戦で敗退してしまいます。

 五輪もうたかたの夢になりかけていた時、カナダの代表コーチから誘いを受け、裏切りと思われないかと悩んだ末、カナダ代表として五輪を目指すことを決意します。

 国籍変更に対しSNS(交流サイト)上には「日本から出て行け」という心ない声も届いたそうです。

 しかし、その何十倍もの応援の声が彼女の支えになりました。勤務先の日本生命甲府支社の上司は「どこの代表かは関係ない。五輪で活躍する姿が見たい」と話しています。


 出口選手自身、自分のためだった決断が「今は、家族や受け入れてくれたカナダの人たちを含め、いろいろな人の気持ちを背負っている」と噛みしめています。

 そして、カナダチーム内の「負けても怒られない」空気のおかげで、負けても「次、がんばろう!」とすぐに気持ちの切り替えができるようにメンタルが大きく変わりました。


 その結果、2018年には5つの国際大会で優勝しました。その年の世界選手権では、準決勝で芳田選手に負けましたが、今年の世界選手権では、決勝でその芳田に勝ちました。東京五輪の決勝戦で、日本代表(芳田司?)と対戦することを私は期待しています。


 


それにしても「日本から出て行け」はあまりにもひどいです。先月号で紹介した、世界的投資家であるジム・ロジャース氏の言葉の中に「日本人は外国人に対する差別意識をなくす必要がある」というものがありました。それを思い出しました。


 ラグビーW杯の釜石での試合が台風19号で中止になった後、カナダ代表の選手たちが、泥かきや家財の運び出しなどを手伝ってくれました。出口選手への心ない一言を思うと、カナダの人たちに申し訳ない気持ちがします。


けれども、今回のラグビーW杯で、日本人の外国人に対する理解は、ずいぶん進んだのではないでしょうか。選手31人中15人もが海外出身ながら、「ワンチーム(ONE TEAM)」としてベスト8を成し遂げた日本チームの活躍ぶりは、日本人の価値観を変えるほどのものではなかったでしょうか。





2019年11月号

   

 世界三大投資家の一人であるジム・ロジャース氏の「日本への警告」(講談社)を読みました。以下はその本からの抜粋の箇条書きです。


・私はオックスフォード大学で歴史を学んだ。歴史や哲学を学び、興味を持ち続けたことで、将来どのような変化が起きるかを長期的に予想することができる。

・歴史は繰り返される。過去も現在も、そして未来も私たち人間はほとんど変わっていないからだ。

・その一方で、物事は変化するということも、歴史から学ぶことができる。


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・安倍政権は日本円の価値を下げようとしている。日銀の指し値オペ(公開市場操作)は、紙幣を無制限に刷っていることと等しい。こうした通貨切り下げ策が中長期的に一国の経済を成長させたことは一度としてない。


・やがて日本の財政破綻がより人々の目に明らかになり国債が買われなくなれば、日本政府は金利を引き上げざるを得なくなる。そのとき、日本は高金利によってさらに膨らんだ借金と向き合わなくてはならない。


・日本政府は少子化対策として効果がありそうなことは何でもやるべきだ。

・歴史上の事実に耳を傾けるならば、豊かになるには移民を受け入れるほかない。そのためには、外国人に対する差別意識をなくす必要がある。

日本人にとって、日本国外(海外の株式やETF(上場投資信託)や不動産)に投資をすることはきわめて重要だ。

・最高品質のものは何でも日本にある。私が提案したいのは「メイド・バイ・ジャパン」(日本人の監修のもとでの海外生産)を世界に広めることだ。

・ペットボトルの緑茶は残念だ。急須でお茶を入れるのは美しい文化だ。日本人はいま一度自国の歴史を学び、誇るべき日本文化の価値を認識すべきだ。


・アメリカではトランプ政権が保護主義を強めているが、愚策でしかない。世界最大の対外債務を抱えるアメリカは、経済悪化により国債の債務不履行を引き起こす可能性がある。

・中国経済はまだまだ成長を続けるだろう。次なる覇権国家は中国である。


 


 一読して、過激な言葉は散見されるものの、奇をてらってはおらず、オーソドックスかつ柔軟な考え方をする人だと私は思いました。








   

2019年10月号

     


 

 夏の甲子園は履正社が初優勝しました。いつも東北や北陸の代表を応援する私は、星陵の優勝を切に願っていたのですが・・・

 

 その決勝戦の日に、智辯学園奈良と智辯学園和歌山の野球部の監督を46年間も務めた高嶋仁氏の講演を聴きました。甲子園に38回出場し、歴代最多の68勝を挙げ、春夏合わせて3回優勝されています。

 

高嶋監督の言う「日本一の練習」は半端ではありません。練習時間は8時間で、遅い時には夜中の2時までです。普通は200300回の腹筋トレーニングを2000回、普通は100150回のバットの素振りを1000回やります。

ところが、1学年の選手はたったの10人です。3年生だけのチームなら、補欠は1人だけです。

では、優秀な選手ばかりを集めるかと言うと、まったく逆です。授業料免除の特待生制度がないので、中学野球で顕著な成績を残した生徒は来ません。そして、10人のうち和歌山県以外からは2人だけです。

こうして、いわゆるB級の選手たちを「日本一の練習」で、甲子園で優勝するまでに鍛え上げます。


ここまで聴いて、私は「辞める生徒が多ければ、甲子園どころか野球部廃部では?」と思いました。その私の疑問に答えるように、高嶋監督はこう話されました。「落伍者を出さない。」

「その秘訣は」とはおっしゃらずに、続けた言葉が「選手の話を聴く」でした。「選手の言葉に一切口をはさまないで話を聴く。そして、次の日に自分の意見を言う」

とことん選手の話を聴く。それが智辯和歌山の真の強さを生む、と私は理解しました。

振り返ってみると、社員から本当の話を引き出せていない自分がいます。それこそ「話にならない」と猛省しつつ、会場を退出される高嶋監督の後ろ姿に拍手しました。

 

 


 103()に、恒例のTKC経営支援セミナー2019を開催します。講師は「6時だよ 全員退社!」の著者である田中健彦(たなか たけひこ)氏です。

今や喫緊の課題である「働き方改革」実践のヒントが得られるものと期待しています。是非ともお越し下さい。


2019年9月号

     


 7月に岡山で日本臨床脳神経外科学会が開催され、オープン参加の市民公開講座に参加することができました。


 講師のお1人はこの7月号でご紹介したサイバーダイン社長の山海嘉之氏でした。同社開発のHALは足腰や腕に装着するサイボーグ型ロボットで、人が筋肉を動かす際に出す微弱な生体電位信号を、皮膚に貼ったセンサーで検出して、モーターで意思に従った動作を実現するものです。

 

 「動かしたい」という意思に従ってHALが動作を助けると「動いた」という感覚が脳に戻ります。この繰り返しで脳と神経、筋肉のつながりが強まるそうです。要は、HALは体の動きを助けますが、その繰り返しによってHALの装着なしでも身体の動きが良くなるのです。


 2歳で交通事故に遭い、脊椎損傷で車いす生活を続けていた少年が、9歳のときHALを装着し、数時間後に少年の脚がビクリと動きだした映像を、本人と両親の歓声とともに見せていただきました。まさに「百聞は一見に如かず」でした。

 少年は体幹の強化にもHALを使い、(当然ですが)HALを装着せずにプレーする車いすテニスの日本ジュニアチャンピオンになりました。身体の機能が改善したのですが、少年とご両親のメンタルも良くなったそうです。





 「人間の持つ大きな可能性を信じる」という点では、もう1人の講師である有森裕子氏も同じでした。


生まれつき股関節脱臼だったこと、元気のない小学生だったけど声をかけてくれる先生がいて陸上を始めたこと、高校では優秀な選手を集めた陸上部に粘りに粘って仮入部したけど3年間補欠だったこと、大学でも芽は出なかったけど社会人になって小出監督と出会い、2大会連続のオリンピックのメダリストになったことを熱くお話しくださいました。

「長い長い時間、がんばり続けたんだなぁ」と私は驚きました。


 「言葉は人の行動を変える」「人間の持っている大きな可能性を信じてほしい」「最悪の状態の中でも、最高の状態を作る」「一所懸命がんばる。あきらめない」「がんばっていれば、誰かに応援してもらえる」「何で〇〇なん?より、せっかくだから△△しよう!」と、すばらしい言葉をたくさんいただきました。